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ピアニスト内田光子による、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第30番から第32番までを収録しています。これら３曲はいずれも作曲者の「晩年」段階に属し、従来のソナタ形式を抜本的に再考した作品群です。例えば第30番では、三楽章構成ながら第三楽章が変奏曲形式である点が従来と異なります。 第31番ではフーガを含む複雑な構成が特徴で、対位法と深い表現性が同居しています。 第32番は最終作で、二楽章構成ながら質量感や精神性の深さにおいて「終章」と言える存在です。

内田光子の演奏には幾つかの明確な特徴があります。本録音についての評論では「録音技師セバスチャン・シュタインによる音響が豊かで奥行きがあり、内田のタッチは力感と明晰さを兼ね備えている」と記されています。 彼女の演奏に対して「このような作品を冒頭に選ぶのは大胆だ」との評価も見られます。 また、演奏上の印象として細部への注意深さ、音響空間の捉え方、内声の構造をクリアに浮かび上がらせるアプローチが挙げられるものの、ある評論では「やや推進力に欠ける」「テンションが抑制されている」との指摘もあります。

このＣＤを聴くと、ベートーヴェンの軌跡の中でソナタという形式がどのように変容し、最晩年の精神性へと至るかが手に取るように把握できます。第30番の静謐と変奏、31番のドラマと対位法、第32番の余すところのない二楽章構成。それぞれが演奏に呼応した構築を見せます。特に内田の解釈は形式的な峻厳さとともに、内包された抒情や哲学的な深みも求めており、単に音を並べるだけの録音ではない点が興味深いです。

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