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アメリカ・デトロイト出身のプロデューサー／DJ、Moodymannによるスタジオ・アルバムです。深くソウルフルなハウス／テクノの影響を受けた作風で、ヒップホップ／ジャズ／ゴスペルなどブラック・アメリカン音楽の伝統をサンプリングやライブ演奏を通じて再構築しています。

四つ打ちハウスのビートを基盤に、ジャズ的なコード進行、インプロヴィゼーション的なライブ・サックスやキーボード、そしてソウル／ゴスペル・ボーカルの断片的な仕込みが見られます。例えば「Runaway」では、ロバータ・スウィードによるシングトーク的なバリトン・ボイスと温かみのあるエレピが組み合わさり、教会の説教的な感覚を帯びたトラックになっています。 サンプリングも多用され、デトロイトのアフリカ系コミュニティの生活音や、マーヴィン・ゲイら往年のソウル・ミュージシャンへのオマージュが随所に散りばめられています。

「ただクラブで踊るためのトラック集」という枠を超え、地域と文化と歴史を反映する深い物語性を帯びており、長尺・展開多彩な構成が特徴です。例えば「Mahogani 9000」では複数のグルーヴが繋ぎ合わせられ、伝統的なハウス曲の構造を意図的に破壊しながら、デトロイトのダンス・セットを想起させる構造になっています。

Moodymannは、自身が育ったデトロイトという都市とそのブラック・ミュージック文化に深く根ざしており、その延長線上にこの作品があります。彼はインタビューで「子ども時代、自分が白人と直接関わるのはテレビか玄関で電気が切られる時くらいだった」と語っており、その体験がサンプリングの選び方や音響設計に影響を与えています。 音楽評論サイトではこのアルバムがMoodymannの作品の中でも「最も野心的なハウス・アルバムのひとつ」だと評されており、その完成度・影響力ともに際立っています。

アルバムは10曲ほどで構成され、冒頭には「Holiday」といった軽やかなイントロダクション的ナンバーが配置され、ラストトラック「Black Mahogani」に至るまで、ジャズ的な間奏、語り・囁き・環境音の挿入、リズムの変化といった演出が巧みに展開されています。 特に「Shades Of Jae」では遅延キックの技法が印象的で、「Riley’s Song」では幽玄な空間の中に電子キーボードのうねりが響くなど、曲毎に細かく質感が変化します。

この作品はクラブ向けに作られたハウス／テクノのアルバムではありますが、単純なダンスフロア仕様という枠組みには収まっていません。むしろ、ダンスを起点にしながらも、ジャズやソウルのエッセンスを取り込みつつ、身体を揺さぶるだけではない「気づき」や「文化的体験」を提示しています。したがって踊る場面でも、聴き込む場面でも価値があるという点がこのアルバムの魅力です。

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