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渡邉義孝氏は一級建築士であり、住宅設計や歴史的建築の保存再生、文化財調査に長年携わってきた実務家であると同時に、フィールドスケッチを通じて建築を探求するスタイルでも知られています。台湾における「日式建築」の探索・記録を通じて本書をまとめています。

単なる建築写真集ではなく、著者が台湾の各地で出会った建築を手書きスケッチ、平面図、旅行ノートとして記録した「フィールドノート」の構成が特徴です。 上記によると、概要として「古さとモダンを併せ持つ外観、大胆で遊び心に満ちた意匠、家主の情熱と美学を語るディテールと改修の痕跡」という言葉が使われ、台湾の風土と歴史が刻まれた「日式建築」を、圧倒的な熱量のスケッチとともに旅する紀行書として位置づけられています。

目次構成としては、序章「台湾の日式建築とは」「フィールドノートに刻む記憶―私の旅のスタイル」から始まり、第1章から第7章まで以下のテーマで構成されています： 第1章：台湾最古の都の路地へ―台南 第2章：南洋進出の夢と戦争の記憶―高雄 第3章：西海岸をゆく―桃園・苗栗・台中・彰化・雲林・嘉義 第4章：最果ての地に輝く建築―屏東と澎湖 第5章：東海岸の旅―花蓮・台東の日本人の足跡 第6章：首府の景観・伝統と変化―台北・基隆のまちなみ 第7章：保存・再生に挑む人びと さらに、建築保存・再生の動きや「台湾の日式建築とは何か」という導入的な論考も含まれ、単なる旅行記や建築紹介にとどまらず、歴史・保存・地域文化という観点も盛り込まれています。

まず本書の大きな魅力は、手書きスケッチや平面図、旅行ノート形式の記録が大量に含まれており、「記録としても資料としても価値ある」構成になっている点です。台湾版も既に翻訳出版されており、台湾における 「レトロ建築ブーム」 の契機の一つとも言われています。

次に、「日式建築」という言葉の捉え方が興味深いです。日本統治時代に台湾で建てられた建築群を指し、和風様式ばかりでなく、和洋折衷・擬洋風・洋風建築など多様な意匠を持っています。本書では台湾と日本の「日式建築」が異なる文脈の中で生まれた点が丁寧に論じられており、例えば日本の和風建築の延長線上だけではなく「台湾という風土＝高温多湿・台風・地震に向き合った設計」が不可欠だったという視点が提示されています。

また、地理的に台湾の各地域を章ごとに巡る構成になっていて、台湾南部から北部、東海岸、西海岸までと広範囲です。各地域の建築をその土地の歴史や人々との折り合いを交えて紹介しており、「建築探訪＋地域旅」的な読み味があります。読者は単に建物を見るだけでなく、その背後にある時代・社会・風土を感じることができます。

保存・再生という観点も本書の重要な要素です。台湾では日本統治期建築の保存運動が民主化とともに発展しており、本書ではその流れや取り組みに触れています。そうした視点により、建築を通じて「記憶」「地域のアイデンティティ」「時間の流れ」を捉える読み物としても機能しています。

本書は建築・インテリア・歴史・地域文化に興味を持つ読者、台湾旅行に深みを求める方、あるいはスケッチ・記録写真を楽しむ人にも向いています。専門的な建築用語や図面も用いられていますが、本文には旅散文的な文体も混在しており、専門家だけでなく一般読者にも手に取りやすい構成です。 また、台湾を訪れる際の建築巡りガイドとしても活用可能で、章ごとに地図や建築物紹介があるため旅のプランニングにも使えます。

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