司馬遼太郎、東洋史、世界史、歴史物語類を買います

壮麗なスケールでナポレオン・ボナパルトの後半生を描いた歴史小説の最終章にあたる作品です。権勢の絶頂から没落へと向かう英雄の陰影を、著者が丹念に紡ぎ出しています。

物語はナポレオンがヨーロッパ各国との戦いで覇を唱え、オーストリア皇女と再婚して帝位と家族を得た後期の時期を軸に展開します。しかし、ロシア遠征での破局や、対フランス同盟軍の圧力によって次第に追い詰められていきます。1814年、ついに退位を余儀なくされ、エルバ島への流刑という悲劇的な転機を迎えます。著者はナポレオンの内面を克明に描きながら、その命運の流転を読者に体感させます。

この巻はシリーズ第3巻にあたり、前巻で描かれた「台頭篇」「野望篇」の延長線上に位置します。栄光の継続ではなく、衰退と挫折の重さを主題として据える点で、シリーズ構成における対比が鮮やかです。シリーズ全体を通じて、歴史的事実とフィクションのバランスに長けた筆致が持ち味ですが、本巻では特に「権力の傾きゆくさま」「英雄の孤独感」「再起の執念」が比重を増しています。

執筆にあたって著者は、西洋史の知識と小説技法を融合させる力量を遺憾なく発揮しています。松嶌明男北海道大学大学院教授による解説でも、「徹頭徹尾ナポレオンに寄り添いながら心情を描く」描写力が高く評価されています。

読者にとって本作の魅力は、単なる歴史再現にとどまらない「人間ドラマ」の深さです。勝利と挫折、卓越した才覚と暗い不安、そして老年期へ向かう肉体と意志の衰え。ナポレオンという個人の運命を追う中で、普遍的な問い──「成功の代償」「栄光と孤立」「歴史に名を遺すことの意味」──が自然と立ち現れます。シリーズを最後まで読み通した読者には、ナポレオンという英雄の背後にある影の大きさを、余すところなく味わえる結末と構成だと思います。

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